不即不離な家

敷地は偶然にも実家敷地とわずかに隣接することになった郊外開発地の一角。この稀有な敷地との出会いをきっかけに、家事や仕事、子育てや趣味等、将来を見据えた暮らしの設計が始まった。暮らしの中に適度な距離感を求めたクライアントの要望に対し、本を読む、TVを見る、ご飯を作る、食卓を囲む、仕事を片付ける、お風呂に入る、玩具で遊ぶ、布団で寝るといった様々な居場所が、“付かず離れず”つながる暮らしを提案をした。まず着目したのは、実家敷地と計画地が雁行しわずかにつながっていたことであり、視線の及ばない庭先や建物の一角が生まれながらも、どこか暮らしの気配が感じられたことであった。この奥行と抑揚のある空間での体験が“付かず離れず”な暮らしにつながると考えた。1階にはL・D・Kとサニタリー、2階には寝室とテラスをそれぞれわずかに隣接するよう東西南北に雁行配置し、回遊性を持たせた。この配置で生まれた4つの入隅に窓を集約させることで、隣接住宅との間に適度な距離感を確保しつつ開放的な室内環境を作り出した。上下階ともに、天井高2.2mの落ち着きある部分を外側に、梁現しとした天井の高い部分を内側で連続するように設け、奥行と抑揚がより感じられる構成とした。また、リビングの一部をテラスに面した吹抜空間とすることで、“付かず離れず”な関係性が各階のみで完結しないよう工夫した。当たり前だと思っていた人・物・事との距離感が次第に変化していく中、“付かず離れず”というスローガンを掲げることで、如何なる変化に対しても程よい寄り添い方ができるのではないかと思っている。

建築敷地:広島県福山市
竣工年月:2022年4月
⼯事種別:新築
主要用途:専用住宅
主要構造:木造 地上2階
敷地⾯積:203.63㎡
建築⾯積:67.10㎡
延床⾯積:109.02㎡
写真撮影:下川高広/冨士スタジオ